早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
罪悪感が募り、私は無意識に眉も目線も下げていた。過去を振り返っている彼女は、私の表情までは気にしていないだろう。


「私の嫉妬が原因でケンカして、泣いて帰ることが多くなった頃からよ。父が尚秋をよく思わなくなったのは。しまいには『ネージュ・バリエとは今後一切取引しない』だとか言い出すから、それが尚秋の耳に入る前に私から別れを切り出したの」


話し切った未和子さんは、やりきれない想いを飲み込むように、真っ黒なコーヒーに口をつけた。

尚くんに対する進藤社長の態度が変わったのは、大事な娘が傷つけられていると感じたからなのだろう。気に入っていたからこそ、裏切られた感覚だったのかもしれない。

未和子さんは、尚くんのためを思って別れを選んだ。『耳に入る前に』ということは、彼女が別れを決断した本当の理由を、尚くんが知らない可能性もある。

私が彼女の立場になったとき、そんなふうにできるかな。……いや、臆病な私にはきっとできない。


「未和子さんは、久礼社長のために別れたんですね……。すごいです」


感心するとか、勇気があるとか、どれも微妙でしっくりくる表現がなく、単純に〝すごい〟と言ってしまった。

未和子さんは首を横に振り、軽く笑い飛ばす。
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