早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
「じゃあ、早く帰らないとな。とりあえず打ち合わせ行ってくる」

「あ、待って」


あることに気づき、出ていこうとした彼を呼び止めた。キョトンとする彼を私と向き合わせ、淡いイエローとネイビーのチェック柄のネクタイに手を伸ばす。


「ネクタイ曲がってる。頑張ってください、社長」


若干曲がっていた結び目を直し、最後にポンと軽く腕を叩いて笑いかけた。

尚くんは自分のことに疎いから、年甲斐もなくついお節介を焼いてしまう。

朝は『忘れ物ない?』と確認するのが癖になっているし、急いでいるときはボサボサの髪のまま出ていこうとするから、私が寝癖直しのスプレーを片手に追いかけることもしばしば。

こういうときだけ、年齢的な意味で彼に近づけたような気分になる。……いや、むしろお母さんみたいか? それはマズい。

一抹の危機感を覚えたものの、ふいに尚くんの手がこちらに伸びてきてはっとした。

包み込むように私の後頭部を支え、綺麗な瞳を妖しげに細めて真正面から見つめてくる。


「……今の、グッときた。会社だってこと忘れてキスしそうになる」


セクシーな声色で囁かれ、ドキン、と心臓が跳ねた。
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