早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
「俺は完全な片想いですよ。というか、すでに八割くらいフラれてます」

「大丈夫です。私は九割超えてますので」

「なにが大丈夫なんですか」


あっけらかんと、フォローになっていないフォローをする彼女に、冴木さんが笑いながらツッコんだ。

おそらく、鬼頭さんは気づいているのだろう。さっきハグしていたことからして、彼が好きなのは私だということに。

罪悪感が心を突く。彼女が普段のアンドロイド状態なのも、かえって心配になるし。でも、冴木さんがいる今はどうすることもできない。

それにしても、見事に一方通行な相関図ができあがってしまった。皆、苦しい片想いだ。

大好きな尚くんの姿と、先ほどの冴木さんの言葉がぐるぐる回って、私は素直な想いをこぼす。


「頭の中では、今頃幸せに花火を見てるつもりだったけど……恋って本当に、そう簡単にはうまくいきませんね」


胸に酸素を取り込めている気がしない。でも、せめて笑っていないと暗くなるばかりだと思い、なんとか口角を上げて不細工な笑みを作っていた。

それを見透かすように、隣からそこはかとなく柔らかな声が投げかけられる。


「無理して笑わなくていいんですよ。私たちは仲間でしょう」


はっとして隣を向けば、鬼頭さんと視線がぶつかった。無表情の中にも、優しさが秘められているように感じる。
< 186 / 270 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop