早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
糖度20%、慈愛80%のプロポーズ
私は物心ついた頃から母子家庭で、父の記憶はほとんどない。
ふたりは駆け落ち同然だったらしく、周りに頼れる親戚もおらず、離婚してからは本当に女手ひとつで育てられた。
とりあえず、『お父さんはちょっと悪い男で、でもいい人だったんだよ』と、母が後悔のなさそうな顔で話していたから、うまくはいかなかったけれど、きっといい恋愛をしたのだろう。
母はいつも笑顔で、逞しく生きている強い女性だった。昼は定食屋、夜は工場と働きづめだったのに、身体を壊すことはほとんどなかったと思う。
そんな彼女が、『お隣りに住み始めた久礼くんよ』と言って、見知らぬ男の人を紹介してきたのは、私が小学五年生のとき。
当時、二十一歳で大学生だった彼の第一印象は、〝めっちゃ大人なイケメン!〟だった。
向日葵のように高い背も、滑らかな低い声も、優しい微笑みも、周りにいる同い年の男子とはまったく違う。子供の私にとっては、大学生でもとても落ち着いた大人の男性に見えたのだ。
別世界の人種のような彼を、私はただただ見つめていた。きっとこのときに、初めて〝目を奪われる〟という体験をしたのだろう。