早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
……そう、だから、婚姻届を提出するのを忘れていた、なんてことはあるわけがない。

鍵までかけてしまってあったのだ、なにか理由があって出さなかったのは間違いない。

じゃあ、その理由で考えられることは……。


「私と、本当に結婚する気はなかった……」


つまるところ、そういうことなのだろう。

優しい彼は、ひとりぼっちの私を見捨てられなくて嘘をついた。結婚したと思わせれば、私は彼のお世話になるしかなくなるから。

すべては、私のための大きなお芝居だった──?

婚姻届を手にしたまま、ずるずると座り込む。悲しいとか、苦しいとかの感情を覚える前に、あまりにも衝撃的でこの事実を受け入れられない。


具合が悪いことも一瞬忘れ、ただ呆然としていると、バッグの中でスマホが音をたてる。

のっそりとした動きで取り出してみれば、ディスプレイに尚くんの名前が映し出されていて、心臓がドクンと揺れ動いた。

このタイミングで電話? どうしよう、普通に話せる自信がない。でも、今出なくてもきっとまたかけ直してくるだろうから……。

少しだけ悩んだものの、結局応答のマークをタップして耳に当て、「はい」と出た。そして開口一番、焦った調子の声が投げかけられる。
< 200 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop