早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
『キョウ、大丈夫か？　熱があるんだって？』


心底心配しているのがわかる声が耳に流れ込んでくると、切なさで胸がきゅうっとなる。


「うん……久々にね。ていうか、なんで知ってるの？」

『たまたま用があって会社に電話したら、鬼頭が教えてくれたよ』


ああ、鬼頭さんが……。きっと、〝野々宮マニア〟の尚くんには伝えておいたほうがいいと思ったのだろう。

案の定、彼はいつも通り世話を焼く。


『とりあえず病院に行け。マンション前の通りの内科、あそこ評判いいから。あとは水分取って、汗掻いたら服着替えて……』

「ふふ、わかってるよ。子供じゃないんだから」


基本的なことを真剣に言う彼に、自然と小さな笑いがこぼれた。

……結婚は嘘でも、心配してくれているその気持ちは本物だろう。これまでずっと彼がしてくれたことも、決して私を騙すためなんかじゃなくて、私の平穏な生活のためにしたことだと信じられる。

だから、ショックは大きいけれど、尚くんには感謝しかないのだ。


「ありがとね、いつも自分のこと以上に気にかけてくれて。……本当に、ありがと」


出会ってから今までの感謝の気持ちが溢れて、涙混じりの声になった。電話の向こうからは、怪訝そうに『キョウ？』と呼ぶ声が聞こえてくる。
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