早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
時間が止まっているのかと錯覚するほど、数秒間はなんの物音もしなかった。

しばらくして静寂を破ったのは、夜の海のような、落ち着いてはいるが暗然とした彼の声だ。


『キョウ……それは、本気で言ってるのか?』


強張った口調で確認され、私はぐっと手を握って「うん」と答える。


『好きなヤツができたのか?』


続けられたその問いには、即答することはできなかった。

できたんじゃなくて、ずっと前から好きだったんだよ。あなたのことが。

プロポーズしてくれたときも、私はきっとすでに恋に落ちていた。上辺の言葉でも、嘘の夫婦生活でも、本当に幸せだったよ。

心の中で叫んで、唇を噛みしめた。堰を切ったように涙が溢れ、泣いているのがバレバレな震える声で、なんとか答えを紡ぐ。


「……うん。すごく、好きな人がいる」


こんな形で告白することになるなら、もっと早くに伝えておくべきだったかな。

心臓に鉛がつけられたかのごとく、鼓動するたびに重くて痛い。

口を手で覆い、必死に嗚咽を堪えていると、『……そうか』と呟く低い声が聞こえる。


『わかった。帰ったらちゃんと話をしよう、今後のこと』
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