早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
『結婚しないか、俺と』


悩んだ末に出した答えがこれだった。杏華をひとりにさせたくないなら、本当に家族になってしまえばいい、と。

当然、あいつは拒否した。そりゃそうだ。女子高生にお隣のアラサー男が結婚を迫るだなんて、彼女たちからしたら〝やばたにえん〟とか言うくらいの案件だろう。

俺はただただ助けてやりたい一心で求婚し、なんとか杏華を懐柔させることに成功した。

だがそれは、すべて彼女のためだと言い切れるだろうか。俺が手離したくないだけだったんじゃないか。

俺に言われるがまま婚姻届に記入する彼女の姿を見ているとき、そんな疑問が浮かび上がった。

その翌日、終業時間後のデザイナーズルームに加々美とふたりで居残り、証人のサインをもらっているときもそう。これで本当にいいのかと、何度も自分に問いかけていた。

加々美は署名しながら、脱帽したというような笑みをこぼしてこう言った。


『久礼さんがあの子のことを大事に想ってることは十分わかってたけど、まさか結婚までするとはね』


信頼できる仕事仲間であり、数少ない相談相手でもある彼は、俺のことをよく理解している。

杏華を愛しく思う気持ちも、それ故に生まれる葛藤も。
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