早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
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花火の音を聞き、出さずじまいの婚姻届を見つめながら、俺はぼんやりと物思いに耽っていた。
杏華にすべてを告白することは決めているし、記念日も近いが、ここへ来てまた葛藤している。
今頃あいつはどうしているんだろうか。本当に瑠莉ちゃんといるのならなにも問題はないが、どうにも胸騒ぎがして仕方ない。
やはり引き止めるべきだっただろうかと、今さらながら少し後悔している。だが、間際になって予定を変えたくらいだ。きっと、俺と一緒にいたくないという気持ちは確かなのだろう。
こんなことは初めてだな。杏華がいつもそばにいるのが当たり前だったから。
……いや、俺がそうしていたんだ。あの子を縛りつけていたのは、他でもない自分だ。
もしも彼女が俺のもとを去る気なら、その意志を尊重するべきで、解放してやらなければいけない。そうなったときのために婚姻届を出さなかったのだから。
いつかこういう日が来ることも覚悟していたはずなのに……やはり手離したくない。くそったれだな、俺は。
堂々巡りな思考に辟易して、くしゃくしゃと頭を掻く。そのとき、テーブルに置いていたスマホが音を立て始めた。