早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

花火が終わってしばらくしてから帰宅した杏華は、どことなく元気がないように見えた。やはり、瑠莉ちゃんと会っていたとは思えない。

翌日になっても浮かない様子なので、さすがに話し合いをしたくなったが、出張に行かなければならず時間がない。

さらに体調も優れなさそうだ。余計心配になり、出がけに声をかける。


「なんか顔色が悪いように見えるぞ。大丈夫か?」

「ほんのちょっと喉が痛いけど、たぶん乾燥かな。平気だよ」


けなげに微笑む杏華がいじらしい。

つい世話を焼きたくなり、彼女の額に自分のそれを当ててみた。風邪をひいたときに昔からやっていた癖で、自然にやってしまうのだ。

……うん、おそらく熱はない。

ひとまずほっとするが、少し動いたら唇を奪える距離にいることを実感すると、胸がじりじりと焼ける感覚を覚える。

こうしていられるのも、あとわずかかもしれない。ただの思い込みだといいが、嫌な予感がするのだ。このまま、離したくなくなる。


「尚、くん?」


戸惑いの声が聞こえ、俺は伏せていた瞼をゆっくりと開ける。なに女々しいことやってんだと思い直して、ようやく顔を離した。
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