早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
何事もなかったようにいつも通りに振る舞い、愛しい笑顔に見送られて家を出た。

眩しい空の青さと入道雲に目を細める。杏華が昔、同じように夏空を眺めて、『ソフトクリーム食べたい』と呟いていたことを、ふと思い出した。

こんな些細なことでも、俺は幸せな気持ちになれる。あいつにとっては、なにが一番の幸せだろうか。

……帰ってきたら話をしよう。あいつが喜びそうなスイーツを土産に、いつものソファに並んで、包み隠さずに話そう。

それからどの道を選ぶかは杏華次第だ。彼女はもう、子供ではないのだから。



名古屋でイベントに参加したあと、杏華のいない一夜を過ごし、翌日も慌ただしいスケジュールで動いている。

午前中の会議を終え、新幹線で横浜に戻る前に、仕事の用件を思い出してネージュ・バリエに電話をした。

応対してくれたのは鬼頭で、話はスムーズに伝わった。電車の時刻が映し出される電光掲示板を見上げながら、気持ちよく電話を切ろうとする。


「じゃあそういうことで、よろしくな」

『あ、ちょっと待ってください』


引き止められてキョトンとする俺に、鬼頭は音声ガイドのような感情が読み取れないいつもの調子で告げる。
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