早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
誰もいないオフィスは時間が止まっているように感じられて、不思議な心地よさがある。ただ、朝でも暑さがこもっていて快適さは低いので、中へ入ると真っ先に冷房をつけた。

ここネージュ・バリエは、広告や雑誌、Webデザインなどを手がけるデザイン制作会社だ。

五年前に起業し、社員数は二十数人であるにもかかわらず、業界内では新進気鋭の会社だと話題になっている。

一躍有名となったのは大手企業の広告を手がけたことがきっかけだが、人気のデザイナーを抱えていることや、自由度が高くアットホームな社風にも注目されているらしい。

そんな中、私は事務アシスタントとして総務的な作業や経理処理などの手伝いをしている。皆が気持ちよく働くことができるよう管理する仕事だ。

朝から入ったときはまず、社内の備品で足りないものがないかを確認するのだが、今日は秘密のミッションのために、入り口から右奥にある、とある人物のデスクに近づく。


「……いつ見ても生活感たっぷり」


オフィス内はスッキリしているのに、ここだけ資料やら筆記用具やらが溢れているので、私はひとり呟いて笑いをこぼした。

こうしている犯人は、去年この会社の社長の座についた、久礼 尚秋(くれ なおあき)だ。
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