早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
なんのことを言っているのかがすぐにわかった私は、複雑な気持ちになって「うん」と頷いた。

母が亡くなって一年、尚くんと結婚して一年。

最悪な別れと、喜ばしい祝い事がほぼ同じ時期に重なっているため、悲しさと嬉しさが入り交じるのだ。どちらかと言えば、やはり前者のほうが大きいけれど。

そんな私の心情をよくわかっている尚くんは、悲しみを共有するようにしばし黙ったあと、あえて明るい声で尋ねてくる。


「記念日、なにか欲しいものとか、行きたいところとかあるか?」

「んー、そうだなぁ」


母を偲ぶのは一旦やめにして、初めての結婚記念日について考えを巡らせる。

今、自分が望んでいることはなんだろう。欲しいものは彼からの愛で、形のあるものではないし、彼と一緒ならどこへ行ってもいいし……。


「……尚くんがいてくれれば、それでいいや」


結局、私の口から出た願いはそれだった。

一瞬キョトンとした尚くんは、ふっと眉を下げた笑みをこぼし、私の頭に手を伸ばして優しく撫でる。
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