早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜
ドキッとすると同時に、ため息交じりの脱力した声が聞こえてくる。


「まったく、キョウは本当に……バカだな」

「あ」


ひどい。こっちは一応真剣なのに。

でも、その言い方は全然バカにしたふうではなく、むしろどこか愛おしささえ感じるような口調だったので、怒りは湧いてこない。

尚くんは困ったような笑いを漏らし、正直なひとことを口にする。


「満足するわけねぇよ、そんなんで」

「……だよね」


ショックを受けつつも、わかっていた答えなので苦笑した。

私なんかのキスは、なんの役にも立たないと言われたも同然。イコール、やはり女としての魅力に欠けるということか。無念……。

しかし、彼は続けて独り言のように呟く。


「キスなんかしたら、余計我慢できなくなるだろうが」


そこはかとなく色気が漂う低音の声が耳に流れ込んできて、胸の奥が甘くざわめく感覚がした。

『余計我慢できなくなる』って、つまり、もっと欲しくなるということ? もしや〝満足する〟の意味の解釈が、お互いにちょっと違っていた?
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