CANDY
今日は、俺も自分で買ったから、いらない。
 
そう言おうと思い口を開いた瞬間、俺はこの言葉を聞いた彼女が傷つく気がして、何となく口を閉ざした。
 
彼女は、何故飴を買い続けているのか。
 
それは、俺に食べさせるためではないのか。
 
不意にそう思い、夜中感じた苛々が頭をもたげるのが判った。
 
俺は今、何かを不満に思い、彼女に八つ当たりしようとしている。自分の中の凶暴な気持ちが、相手を考えずに俺の中から出ようとしている。

「飴、食べますか」
 
改めて彼女が聞いた。
 
儀式みたいだ。
 
決まった言葉に、決まった言葉で返す。彼女が飴を取り出して、俺に渡し、俺が毎日違う色のそれを口に放り込んで今日の儀式は終了。
 
同じ時間に起きて同じ時間に出勤、同じ時間に帰って同じ時間に寝る、決められたルーティンワーク。そう、その全ては俺が決めたわけではなくて。
 
壊してみたいとは思わないのか。
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