CANDY
彼女はハッとして店長に向き直り、「嘘です」と舌を出した。

店長が、俺と彼女を睨んだのが判った。驚かすな、と言っているのだ。

「児島さんは、辞めたいって思うんですか」
 
彼女は俺の目を真っ直ぐ見て言った。

俺はその視線に少し考えを巡らせたが、答えが出てこない。

辞めたいと思っているのか、自分についての周りの噂を耳にして、辞めたいと思っている、と思い込んでいるのか。

「辞めたいってはっきり思わないんだったら、続けてみれば」
 
俺は彼女を見る。

彼女は、きっと俺の噂を知っている。

知っている上で、こう言われた。もしかして、慰められている。俺は口角を上げた。何かを言おうと口を開けるが、結局言葉が出てこないまま口を閉じる。

「何ですか」
 
そんな俺を見て、彼女は訝しげに表情を作り変えた。

「なんでもない」
 
俺は笑って、右手を差し出した。彼女はその手の意図を汲み取ることの出来ないまま、俺の手に自分の手を乗せる。

「違うよ、そっち」

彼女の行動に俺は苦笑しながら、左手で彼女の持つ飴の袋を指した。
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