キミの声を聞かせて
そして訪れたバレンタインデー当日。
「はいこれ」
「おー生チョコだ!ありがとうー」
甘いものが好きな佳奈はとても喜んだ。
「私からもはい」
そう言って佳奈から渡されたのはガトーショコラ。
「わぁ美味しそう。ありがとう」
「うん!」
そして休み時間など空いた時間に友達に渡しに行っているとあっという間に放課後になった。私の鞄の中にはクッキーが入った袋が一つだけ。
「じゃあ私部活の皆に渡しに行くから」
「うん。またね」
佳奈は走って教室から出て行った。
今日は先生の授業がなく、廊下ですれ違った時も私は顔を合わせなかった。先生は私からの贈り物を待っててくれているだろうか...。胸の高鳴りを抑えながら資料室に向かおうと教室に出たその時だった。
「あのさ」
手を引っ張られ、私が行くのを阻んだのは風磨くんだった。告白された日以来話していなかった彼に急に呼び止められて驚いた。
「えと、なに?」
「その...誰かに渡すの?」
「友達には配ったけど...」
「男子には?」
「えーと...」
まさか先生に渡しに行くとは言いにくかったため嘘をつこうかと迷っていた。
「もしかして久雅先生に渡すの?」
風磨くんから出て来たのは私の頭の中にいた人の名前。
「えっ!なんで先生が?」
「...遠野さんって先生と仲良いよね」
「そ...そうかなぁ」
そんなに仲よさそうに見えるのだろうか。他の人にも変に思われていないか不安になる。
「もしかして好きなの?」
「そんなわけないよ!」
「...それなら良いけど...」
風磨くんの顔は不満げだ。
「そ、それじゃあ私用事あるから」
急いでここから立ち去った方が良い。私は駆け足で行こうとした。
「あっ危ない」
風磨くんの声も届かず私は前にいた人にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「いや、俺もごめん」
ぶつかって地面に手がついた。右手の下敷きになっていたのは鞄。
「やば」
私は急いで鞄の中のクッキーを確認した。嫌な予感は的中し、クッキーは割れて粉々になっていた。
「大丈夫?」
駆け寄ってくれた風磨くんの手を取り立ち上がる。
私は割れてしまったクッキーをどうしようかということで頭がいっぱいだった。
「あの、ありがとう。それじゃあ」
呼び出してしまった以上黙って帰るわけにもいかない。とりあえず私は資料室に向かった。

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