キミの声を聞かせて
「先生...」
連れてこられたのは建物の間の細い通路。
「ごめん...。我慢できなかった」
「...いえ...大丈夫です」
何を言えばいいのか分からず黙ってしまう。先生も何も言わず私たちの間に沈黙が流れる。
その時ラインの通知が鳴る。
「あっ、風磨くん...」

『移動した?どこにいる?』

風磨くんに何も言わず外に出てきてしまったため探しているだろう。
「あの、私戻らなきゃ...」
「...俺と一緒にいてよ」
話さない日が続いても、どれだけ見ないようにしていても、接してしまったら好きだという想いが止まらなかった。こんな想いがある私に先生の元を去って風磨くんのところに行くことは出来なかった。
「...ずるいよ...」
「ごめんね」
私は風磨くんに「行きたい場所ができました。ごめんなさい」とだけ送って携帯をしまった。
「連絡とらなくてごめん」
「私の方こそ...ごめんなさい...」
「俺の気持ちが遠野の邪魔になってるんじゃないかって思ったら話せなくなった」
「邪魔なんてそんなこと...」
そんなことない。そう言い切りたかったが、邪魔かもしれないと思わせていたのは私の態度が原因だった。
「本当は春休みも会いたかった」
「...はい」
「遠野の水着姿も他の男に見せたくなかった」
「え?」
「俺結構心狭いでしょ?」
「ふふっ。そうですね」
「そうなんだよ。俺本当は遠野のことになると余裕も何も無くなるんだよ。遠野の傍に男がいると、そこは俺の場所だろって思っちゃうんだよ」
「先生...」
「こんな俺カッコ悪いかな」
「...そんなことないです」
先生は心から私のことを想ってくれている。私は先生の気持ちに応えていいのだろうか...。
「あ、これ...」
先生が手を伸ばしたのは私がつけているネックレス。
「つけてくれてたんだ」
「はい...。先生がくれたものだから...」
「そっか...」
「それで、その...」
私はさっき買ったものをバックから出す。
「これ良かったら...」
包装された箱を渡す。
「開けていい?」
「はい」
リボンを解き中身を見る。そこに入っているのはネックレス。
「これ...」
「星型の飾りがついてて...先生がくれたものと似てるからお揃いみたいになれるかなって...」
見た瞬間に先生にあげたいと思った。その思いのまま渡すところまで来た今恥ずかしさが込み上げてきた。
「いや、あの、いらなかったら返してくれて大丈夫なんで...」
私の言葉が言い終わる前に先生はネックレスを首につける。
「似合う?」
「はい...とても...」
「ありがとう。大事にするよ」
先生が喜んでくれている。贈ってよかったと心から思った。
「そろそろ時間か...」
時計を見ると集合時間10分前になっていた。
「...じゃあ戻りますね」
「遠野」
「はい」
「...修学旅行楽しかったか?」
「はい!」
私は笑顔で先生から離れる。友達と過ごせたことも良かったが何より先生と話せたことが嬉しかった。それだけで楽しい修学旅行の時間となったのだった。

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