熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
しばらくして、背後から近づいてくる足音に気づき、私は自然に振り向く。
すると、現地の若者らしきひとりの青年が、息を切らせながら駆け寄ってくるところだった。
見る限り全く顔見知りなどではなく、私は警戒して周囲を見回した。
けれどこの辺りに人気は全くなく、広がるのは夕焼けに染まるのどかな風景ばかり。もし襲われたら逃げ場はないだろう。
……青年がいい人でありますように。私はそう祈るしかなかった。
青年は私の前で立ち止まると、呼吸を整えながらたどたどしい英語で話した。
『あなたを呼んでいる人がいる。その人のところまで、一緒に来てほしい』
「呼んでる人……? 誰のことかしら」
思わず日本語でこぼしてから、英語に直して彼に伝える。すると、青年はにっこり微笑んでこう答えた。
「キョウイチ。ナグモ、キョウイチ」
なんですって? 彼は南雲と知り合いなの?
せっかく昼間の出来事を忘れられたと思っていたのに……。