熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「父さん、兄さんのことなんだが、どういうつもりなんだ?」
「ん? どういうつもり、とは?」
父は意表を突かれたように目を丸くし、立派な口ひげについたトマトソースをナプキンで拭った。
「とぼけないでくれ。今までも、本心では兄さんを社長にしたかったんだろう? だったらどうしてもっと早く言ってくれないんだ!」
「……待て。なにを言っているんだ梗一。俺にはまったく意味がわからんぞ」
感情的になる俺を、父が落ち着いた態度でたしなめる。威厳のある瞳は揺らぐことなく、しっかり俺を見つめている。
……本当に、父には心当たりがないのか? じゃあ、あの話はなんなんだ?
「どこからそんな噂を仕入れたのか知らんが、今さら桔平を社長に、なんて思うはずがないだろう。俺はまだ会社をつぶしたくないし、そもそもアイツは……」
父はそこまで言ってから、急に口を噤んだ。そしてちらりと母の方を見やると、ゴホンと咳払いをする。
……いったい、なにを言おうとしていたんだ?
俺は母の方を一瞥し表情を窺ったが、母は静かに食事を続けるだけだ。