熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
『今から詩織を日本に連れて帰る。お前に、話したいことがあるって』
「話……?」
なぜ、突然日本に……? 俺があれだけ頼んでも首を縦に振らなかったのに……やはり、兄でないと彼女の心を動かすことはできないのか?
それなら、話というのも、俺を拒絶するものかもしれない……。
頭の中で勝手に膨らんでいく最悪の展開に、胸が痛いほど締め付けられる。
けれど、そんな俺を叱咤するように、受話器の向こうで兄が言った。
『不安がるのは自由だけど、詩織の方がもっと不安なんだ。空港まで迎えに来いよ。十八時頃に羽田だから』
「十八時……」
俺はその時間を呟き、未だデスクのそばに立ったままの三島に視線を送る。
スケジュールの確認だと察した彼は持っていたタブレットを手早く操作し、「会議が滞りなく進めば問題ありません」と頷いた。
「わかった。必ず迎えに行く」
『うん。……詩織にもそう伝えとく。じゃあな』
兄の声色は優しく、いつものようなわざとらしさもなかった。
詩織がそばにいるからなのか……? そう思うとまた兄に嫉妬心が湧きそうになったが、なんとか振り払った。
今夜、十八時……空港に行けば、詩織に会えるのだ。
細かいことはいい。とにかく彼女に会いたい。会って、確かめたい。
あの島で過ごしたのは短い時間だったが、あのとき俺たちはちゃんと、愛し合っていたのだと――。