熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
その日は会議が多く、その一つひとつが少しずつ長引いてしまい、仕事を終えて社を出るときにはすでに約束の十八時が迫っていた。
今いる本社は赤坂にあり、羽田まで早くても三十分以上はかかる。『遅れるが必ず行く』と兄にメールを送り、タクシーで羽田へと向かった。
幸い渋滞はなかったが、四十分弱でかかってようやく羽田に到着した。タクシーを降りた俺は国際線ターミナルの建物に入ってすぐ兄に電話をかける。
「着いた。どこにいる?」
『五階のカフェ。ふたつあるけど、ベーグル推しの方』
「わかった。すぐに行く」
『じゃあ、俺はお役御免だな。またね、詩織。すぐ梗一来るから』
一緒にいるらしい詩織に、兄がそう声をかける。電話の向こうで詩織の声が聞こえやしないかと期待したが、よくわからないまま通話は途切れた。
……そんなの期待せずとも、今から直接本人に会えるじゃないか。
俺は気を取り直してスマホをポケットにしまい、はやる気持ちを抑えられず早足になりながら、教えられたカフェへと急ぐ。