熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
『え? 詩織がいない?』
「ああ。夕刊で俺と天海優良とのありもしない結婚話を鵜呑みにして、身を引いたらしい。……兄さんも一枚かんでいるんじゃないのか?」
空港内を歩きながら、俺はひとまず兄に電話をした。直前まで詩織と一緒にいた彼が、敵なのか味方なのか確かめるために。
『まさか。俺はお前には意地悪だけど、詩織を傷つけるようなことはしない。でもおかしいな、そんなニュースが出るなんて……優良ちゃんも味方のはずなんだけど』
どうやら兄にも身に覚えがないらしい。そして、優良のせいでもないという。
……いったいどういうことなんだ。誰が詩織を傷つけたんだ?
真相を解明したいのは山々だが、それは今やるべきことを終わらせてからだ。
「とにかく詩織を探してる。行き先に心当たりはないか?」
『あるよ』
兄は驚くほど平然と言った。なんでこの男は詩織のことをなんでも知っているのだろう。