熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
第五章
・「やっと捕まえた」
「……詩織、大丈夫?」
「しおり、だいじょーぶ?」
ドアの外から、優しい姉、香織(かおり)の声と、それを真似ているのであろう、無邪気であどけない甥、大地(だいち)の声がする。
空港で、迎えに来てくれるはずの梗一を待たずに私が向かったのは、姉とその家族が住む平和な家だった。頼れる人が他にいないのと、姉の顔を見て安心したかったのもある。
『何も聞かずに少しの間泊まらせてほしい』
妹とはいえそんな図々しいお願いをした私に姉は嫌な顔ひとつせず、本当に何も聞かないまま私を家に上げてくれた。昔から優しい姉のままだ。
それからはずっと与えられた客間で、電気も点けずに膝を抱えていたのだけれど、心配になった姉が様子を見に来てくれたらしい。
私はゆっくり立ち上がって、ドアの前に近づいた。
「ありがとう……大丈夫だよ」
力なく言ってから、全然大丈夫な声ではないなと小さく自嘲をこぼす。
でも、この温かい家庭にあまり深刻な空気を持ち込みたくなくて、私は自分の事情を打ち明ける勇気が出ない。