熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
そうは思っても、この泣き顔じゃ余計に心配をかけてしまうかもと、踏ん切りがつかずにいたそのときだった。
「――詩織。俺だ。話がしたい」
ドアの外から聞こえてきたのは、ここにいるはずのない愛しい男性の声。私は驚きのあまり返事もできず、突然高鳴り始めた心臓に手を当てる。
どうして、梗一がここに……?
状況を飲み込めず返事もできない私に構わず、ドアの向こうの彼は言葉を続ける。
「まずひとつ言わせてほしいのが、天海優良との結婚話は事実じゃない」
どくん、と心臓が揺れる。……うそ。だって、新聞に出てたのに?
日本に帰ってきてすぐ、空港内の売店で偶然みつけた新聞記事。
私はその内容にひどくショックを受け、私を日本まで送り届けてくれた先生にも黙って購入し、こっそりバッグにしまった。
日本に帰った梗一が、彼に相応しい相手と結婚する。そんなこと想定済みだったはずなのに、裏切られた思いがした。
けれど事実を梗一に直接問いただす勇気はなく、新聞をカフェの従業員に託すだなんて、姑息な手を使った。
彼と向き合ったら、嫉妬に心を歪ませた醜い自分があふれてしまいそうだったから……。