熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~

「向こうで診察を受けたとき、妊娠四週だと言われたわ。体調は今のところ平気。もちろん日本でまたきちんと病院に行くつもりだけど、妊娠しているのは確かですって」

「そうか……。不安だっただろう、ひとりで」

気遣うように顔を覗かれ、私は正直に頷いた。

いつもはほとんど狂わない生理が遅れ、なんとなく体調が思わしくなくて。

もしかしたら、妊娠……? そう予感したときの心細さは、忘れられない。

「でも、あのときタイミングよく先生がアトリエに来てくれて、よかったわ。ただ不安がるばかりの私に、病院へ行こうって背中を押してくれたの」

「先生、って……」

怪訝そうに眉を顰める梗一に、私は微笑んで教えてあげる。

「あなたのお兄さんよ。彼は相変わらず優しくて、頼りになる人だった」

「やっぱりそうか……。でも、俺はその意見に賛同できない。今回は助けられた部分もあるが、兄の考えていることは全く分からないし、俺は正直疎ましいと思って――」

梗一が、ぶすっとしながらそんなことを語っていた途中だった。

「あ~あ、嫌われたもんだなぁ。せっかく詩織に会わせてやったのに」

廊下の方から拗ねたような男性の声がして、開けっぱなしだったドアの向こうに、今まさに話題に出ていた人物の姿が。



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