熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「どうして雅春さんなんですか?」
思わず尋ねると、先生は眼鏡のブリッジをくいっと上げてから私に笑いかけ、こう言った。
「簡単なことだよ詩織。この中で彼だけが、俺と血の繋がりがないのさ」
「えっ……?」
先生はなにを言っているのだろう。彼と血の繋がりがあるのは、この中なら梗一だけでしょ?
頭の中が疑問符でいっぱいになる私に、姉が説明を加える。
「詩織。彼の言うことは本当なの。彼は梗一さんの兄でもあるけど、私たちの兄でもあるのよ」
「……ま、ますますわけがわからないんだけど」
戸惑いながら、ふと隣の梗一を見る。
彼は顎に手を当てて静かになにか考えていたけれど、やがて顔を上げるとこう言った。
「もしかして、兄さんは……俺たちの母親と、詩織たちの父親との間に生まれた子なのか……?」
えっ。ちょっと待って。複雑すぎて、頭の中が整理できない。
今梗一が言ったことが本当なら、梗一と先生は異父兄弟、私たち姉妹と先生は、異母兄弟……ってこと?
「ビンゴ」
先生は悪戯っぽく笑って頷き、それから私たちの複雑な関係を詳しく聞かせてくれた。
昔、貧乏な画家だった父と、良家のお嬢様だった先生のお母様は、身分違いの恋に落ちた。
ふたりは本気で愛し合っていたけれど、やがてお母様は家庭の事情で南雲家に嫁ぐことが決まってしまう。