熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
姉の家への居候中、私は下手なりに家事を手伝い、掃除や洗濯、食器洗いといった簡単なものならそれなりにこなせるようになった。
ただし料理だけは別で、手際だけはよくなったものの、肝心の味付けがイマイチで、いつも最後は姉の手を借りることになってしまう。
「大丈夫よ。私だって最初から上手くなんてできなかったんだから。梗一さんにも好みがあるだろうし、一緒に暮らしてから二人の味を作っていけばいいのよ」
ある夜、姉と一緒にキッチンで夕食を作っているときに、みそ汁の味が決まらず落ち込む私に、姉は優しくそう言ってくれた。
しかし彼女がちょっと味噌を足しただけで格段に味がよくなっていて、私は自分の料理スキルのなさを痛感してさらに落ち込んでしまう。
「……料理って、もっと簡単かと思ってたよ」
私は思わずため息交じりにこぼした。
島のアトリエで暮らしていたころ、時間を無駄にしないようにとパンや生野菜をそのままかじったりする貧相な食生活だったことを今さら後悔する。
「意外と奥深いでしょ? 私も主婦としてそれなりに腕を上げたと思ってたけど、たまに大地にダメ出しされたりするのよ」
「へえ……大地、意外とグルメなんだ」
「そうなの。もう、生意気で困っちゃう」
そう言いつつも、リビングで車のおもちゃを走らせる大地に向けられた姉の視線は、愛情にあふれて温かい。まさに理想の母親像、という感じだ。