熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「ママ、なぁに?」
その時、私たちの会話に自分の名前が登場しているのに気づいた大地が、トトっとキッチンに入ってきてつぶらな瞳で問いかける。
「ううん、なんでもない。大地、そろそろおもちゃ片付けてくれる?」
「やだ、まだ遊びたい!」
姉の言葉に、大地が口をとがらせてふるふる首を横に振る。
「ごはん、いらないの?」
「うん、いらない!」
そう言って、またリビングに戻って車のおもちゃに夢中になってしまう大地。姉は疲れたように肩を落とし、それから私に向かって言う。
「まったくもう……。今、イヤイヤ期真っ最中なのよね。どうせ食べるくせにああやって言うのよ」
「そうなんだ。大変だね……」
ぼんやりとした相槌を打ったら、姉が笑いながら私を睨んで軽く脅してくる。
「詩織も他人事じゃないわよ~。自分の子どもだから可愛いのはもちろんだけど、腹が立つことだって日常茶飯事なんだから」
「わ、わかった。肝に銘じておく」
説得力のある姉の助言に頷いて、私は夕食の配膳に取り掛かる。
テーブルに料理が並び始めると、大地も今は遊ぶ時間じゃないとちゃんとわかったらしい。
おもちゃを片付けてからキッチンにやってきて、「お手伝いする!」とたどたどしく宣言する姿はやっぱり可愛くて、私もわが子に会える日が待ち遠しくなった。