熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
すると優良さんは、呆れたようにため息をついて長い脚を組み替え、仕方なさそうにこう提案する。
「それなら、愛人の立場で子どもを育てるしかないわね。悪いけど、私と梗一の結婚は揺らがない。つまり、あなたの子はいわゆる〝妾の子〟になってしまうわけだけど、その覚悟はあるのね?」
妾の、子……。
私は、何も言い返せなかった。優良さんはおそらくそのことを言いたくて、私に会いに来たのだ。
お腹の子を産もうが産むまいが、私に梗一の妻の座は渡さない……と。
やっぱり、私が梗一と結婚するなんて、分不相応な夢物語だったの……?
膝の上でぎゅっとこぶしを握り、やるせなさに押しつぶされそうなのを堪える。
けれど、次第に鼻の奥がツンと痛くなって目頭が熱くなり……握ったこぶしにポタリと一粒の涙がこぼれると、優良さんが満足げに鼻を鳴らした。
「じゃ、私は帰るわね。お金はいらないようだから、持って帰ります。ねえ詩織さん。あなたとお腹の子と、そして梗一みんなが幸せになる道を選んでくださることを、くれぐれも期待しているわ」
美しい微笑でそれだけ言い残し、彼女はひとり玄関の方へ歩いて行った。扉が閉まる音が聞こえると、こらえていた涙が堰を切ったようにあふれ出す。