熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
得意顔で宣言して勝手に歩き出す彼だけど、そんな理屈で納得できるわけがない。
それに、彼の大きな手の感触ばかりに意識がいってどぎまぎするから、心底やめてほしい。
「いきなり腰を抱くのが紳士的なエスコートだとは到底思えないんだけど」
「……厳しいお姫様だ。ま、エスコートにかこつけてきみの体に触れようっていう下心があったのは否定しないけど」
艶めかしい声色で囁くように言われると、カッと全身が熱くなり、羞恥に耐えられなくなった。
私は腰に置かれた彼の手をパシンと払いのけ、早足で数歩進んだあとぴたりと足を止める。
そして、自分でもわけのわからない動揺に苛立ちながら、南雲を振り返って言った。
「言っておくけど、私はそんなに安い女じゃないから!」
強い口調とは裏腹に、内心では彼の放つ圧倒的な魅力に負けそうになっている弱気な自分も否定できずにいた。
目の前の南雲を、好きか嫌いかと聞かれたら間違いなく嫌いだ。
なのに、彼の表情のひとつひとつが、甘い言葉が、艶めいた声が、触れた手の温もりが。
蜂蜜のようにとろりと胸に沁み込んでは、勝手に心を乱していくのだ。