熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「っく……どうしたって……あんな完璧な女性に、敵うはず……ないっ」
私はか細い叫び声で、敗北を認めるしかなかった。美貌も、経済力も、聡明さも、明らかに彼女の方が上だ。
今までならたったひとつ、絵を描くことだけは誇れた。なのに、今はその道具にすら触れられない。もう、私には何もないの……。
私は、どうしたらいい?
梗一との結婚は望めない。それでも、子どもを産まない選択肢だけはあり得ない。
もし、梗一と愛人関係になって出産したら、お腹の子は優良さんの言う通り、妾の子……親のエゴで、つらい人生を歩ませることになってしまう。
だったらもう、残された道はひとつしか……。
私はゆらりと立ち上がり、リビングの固定電話のそばに置いてあったメモにペンを走らせた。
途中途中で手が止まり、文字が涙で滲む。けれど何とか書き上げてメモをちぎると、目に付きやすいテーブルの上に置いた。
【お姉ちゃん、今までありがとう。いつまでも迷惑をかけていられないので、私はここを出ます。赤ちゃんは、頑張って一人で産んで育てます。雅春さんと大地と仲良くね。さよなら。 詩織】
……早く荷造りをしてしまおう。動物園は夕方には閉園だから、もう帰路についているかもしれない。
家を出たら、携帯を新しくして、今度こそ梗一に見つからない場所で……この子とふたり、つつましく生きていこう。
それがきっと、みんなが幸せになる道なのだと――そう信じて。