熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
優良は鮮やかな色の口紅の塗られた下唇を噛み、しばらく黙っていた。しかし、やがて悔し気に眉を顰め、吐き捨てるように言う。
「……梗一って、本当に馬鹿」
「優良との結婚を選ばないからか?」
「ええ。……負け惜しみにしか聞こえないでしょうけど」
俺はデスクから立ち上がり、優良の正面に位置するソファに腰かけ彼女を諭す。
「人間関係に勝ち負けなんてない。お前はその凝り固まったプライドを脱ぎ捨てなければ、たとえ俺と結婚したっていつかは仕事を失うよ。……本当はわかっているんだろう? 実力とは別のところで評価されたって、自分自身満たされないってこと」
伏せていた長い睫毛をゆっくり上げ、俺を見つめる優良の瞳は赤く充血していた。
今にも泣きだしそうなのを必死にこらえているように、噛みしめたままの唇はぶるぶる震えている。
優良は無言のまま立ち上がり、くるりと俺に背を向けると、ヒールを鳴らして副社長室のドアに向かう。そして扉に手をかけたが、出て行く前にほんの少しこちらを振り返り、ぼそりと言った。
「……パパには私から言っておく。あと、あなたが会見する必要はないわ。南雲グループの御曹司には振られたって、私の口から発表する。……その方がファンの同情を買えそうだしね」
「優良……」