熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
兄は珍しく殊勝な様子で、自分の行動を反省しているようだ。しかし今さら彼を責めてもどうにもならないし、今の俺にはそんな気力もなかった。
「……まぁ、海外の可能性は薄いと最初から思っていた。出産も子育ても海外では余計に不安だろうから」
「だよな……。この日本のどこかにはいるはずなんだけど」
それきり会話は途切れ、兄弟ふたりして黙り込んでしまう。やがて病室に戻ってきた母が、兄を気遣うように言った。
「桔平。あなたは家に帰りなさい。身重の嫁を放っておいちゃだめよ」
「……ああ、わかったよ。あいつ、超がつくほど元気だけどね」
身重の、嫁……?
耳に飛び込んできた言葉に驚き、俺はふたりの会話に割り込んだ。
「義姉さん、おめでたなのか?」
「あれ? お前に言ってなかったっけ。予定日五月の中頃だから、出産祝いよろしく」
「……聞いてない。それに、五月って……」
前に『離婚を考えている』とか言っていたのも完全に嘘っぱちで、俺を焦らせて面白がっていたようだ。
実際は離婚どころか、子どもまで作っていたとは……。
待てよ。前に電話で兄と話していた時、女の喘ぎ声のようなもの聞こえたことがあったが、まさかあれは夫婦の営みの最中だったのか?
……深く考えるのはよそう。しかし本当にその最中に俺と電話していたのだとしたら、呆れるほど悪趣味な兄だ。