熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「五月がどうした」
「……いや、なんでもない」
出産祝いをもらうなら、俺の方が先じゃないかと言いたかったが、母のいる前でする話じゃない。だいたい、詩織がまだ見つかっていないのに……。
「あら、雪だわ」
その時不意に、母が窓の向こうを見て言った。
つられるように視線を動かすと、窓の外には確かにちらちらと雪が舞っていた。
「タクシーが捕まらなくなったら嫌だから、私も帰ろうかしら」
「そうした方がいい。別に見張ってなくたって、病室で仕事をしたりしないから」
不安げな母を安心させるつもりで言ったが、逆に疑いの眼差しを向けられる。
「……そう言われると怪しいわね。でも本当に、ちゃんと休んでいなさいよ?」
「ああ。わかってるよ」
そんな会話の後、兄と母が病室を出ていってしまうと、一人部屋の個室はしんと静まり返った。
俺はベッドから下りて何気なく窓辺に近づき、灰色の空から舞い落ちる雪を眺めた。
「寒い思いをしていないだろうな……詩織」
あれから半年も過ぎたんだ。もう、お腹も目立つようになってきただろう。
買い物に行くのも、病院へ行くのも、ひとりでは不便だろう。こんな雪の日には、滑って転倒しないかどうかも心配だ。
なぁ詩織。きみもお腹の子も元気にしているのか……?