熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
私が下唇をきゅっと噛んで黙っていると、ゆったりと歩み寄ってきた南雲が私の顎に手を添えて、クイッと上を向かせる。
自然に視線が絡み合うと、甘い蜂蜜がまた一滴、胸の内に垂らされるのを感じた。
「きみが安い女だなんて少しも思ってないよ。むしろ、まだ誰にも触れさせたことがないんだろう? 美しくて純粋な、孤高の画家。それがきみだ、詩織」
南雲が、息をのむほど真剣なまなざしで、私を見つめる。耳の奥で、徐々に大きくなる自分の鼓動が聞こえる。
「誰にも、って……そんなこと、どうしてわかるのよ」
「わかるさ。俺はきみが高校生のころ……恋愛を諦めて絵の道に突き進もうと決めた時期から、すでにきみを知っているのだから」
どくん、と心臓が激しく揺れた。
この男……なんで、私が人生から恋愛を排除しようと思うようになった、あの頃のことを知っているの?
「私……あなたと前に会ったことがあったかしら?」