熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「あの、よろしければ、これ……」
遠慮がちな声に振り向くと、サーラが小さな箱を俺に差し出していた。箱に貼られたハート形のシールには〝Happy Valentine〟の文字がある。
この時季、ビジネスツールとしてチョコを送られることも珍しくないため、俺は「ありがとうございます」と自然に受け取った。
すると、サーラはにこやかにこんなことを語りだす。
「実はそれ、蝶の形をしたチョコレートなんです。南雲副社長は画家のSHIORIのファンだと伺ったので、それがいいかなと」
「よくご存じですね。確かに僕は彼女の大ファンです」
俺が感心すると、サーラは悪戯っぽく微笑んだ。
「うちの社員にも彼女の絵のファンがいるんです。彼、今まで彼女が描いた中で一番大きな作品の原画を手に入れるためにはるばる日本に行ったことがあるのですが……帰国してから、同じくSHIORIファンのある男の熱意に負けて絵が手に入らなかったって、嘆いてました。後で調べてみたら、それが南雲副社長だったそうです」
「はは、それは悪いことをしました。しかしどうしても譲れなくて」
俺と詩織の関係を知らない相手にこうして彼女の話をするのは気楽で、途中までは楽しく会話が進んでいた。
しかし、サーラが次に放った言葉に、俺は穏やかではいられなくなる。