熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「実は、詩織のお腹には、俺の子がいるんです。なのに彼女は俺に自分は相応しくないと思い込んで、たったひとりで子どもを産もうとしている……」
「え? え?」
「だが、ようやく彼女を迎えに行けそうだ。ありがとうございます。では、仕事の方、引き続きよろしくお願いします」
「は、はい……」
呆然とするサーラを残して、俺は足早にビルを出た。彼女がなにか言いかけていたような気もするが、俺を引き留めはしなかったので、大したことではないのだろう。
会社に戻るタクシーの途中で、詩織の新作の絵についてタブレットでさっそく調べてみる。
発表されたばかりの新作とあって写真等は見つからなかったが、会社からも近い六本木のギャラリーに複製画が展示されているらしい。
最終入館は19時までとあり、急いで仕事を片付ければなんとか今日中に行けそうだ。
絵には、描いた人の心が映る。あれから詩織は何を思っていたのか、絵を見ればきっと伝わってくるものがあるはず。さらに居場所までわかればベストなのだが……。
あれこれ考えているうちにタクシーは社に到着し、俺は一旦頭を切り替えて副社長の顔に戻るのだった。