熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
・蝶に導かれて
「副社長、ちょっとよろしいでしょうか」
六時過ぎに仕事を切り上げ、俺は一刻も早くギャラリーに向かいたかったのだが、帰り支度を済ませたところで秘書の三島が副社長室にやってきた。
「どうした、俺はこれから用事があるんだが……急ぎの案件か?」
「いえ。ただひと言お礼を申し上げたくて」
いつも飄々としている三島にしては珍しく、神妙な顔で俺をまっすぐに見ている。
「礼と言われても、心当たりがないが」
「……天海優良のことです。彼女の目を覚まさせてくださって、ありがとうございました」
三島はそう言ってかしこまって頭を下げる。しかし、俺にはまだ事情がよく呑み込めず、静かに三島に問う。
「……どうして優良のことできみが?」
「俺たち……以前、恋人同士だったんです。副社長と許嫁の関係だというのは彼女から聞いていましたが、そんな親同士の口約束は気にしなくていいと、当時は言ってくれていました」
なんだって……? 優良と三島が……。
予想外の事実に驚いた俺は、ギャラリーの閉館時間を気にしつつも彼の話の続きに耳を傾ける。