熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
閉館間際であるせいなのか、客は俺一人しかおらず貸し切り状態だった。
本来ならゆったりと絵画を楽しみたいところだが、今は目当てのものを探さなければ……。
白い壁に掛けられた、いくつもの色彩豊かな絵画を素通りしながら奥へ進む。
すると、一か所だけ行き止まりになっている場所があり、その壁には目を見張るほど巨大な蝶がいた。
斬新な色使い、力強い筆のタッチ、放たれる独特の存在感。
隅のサインをを見るまでもなく、それが詩織の作品であることが本能でわかった。
「これだ……」
ごくりと喉を鳴らし、一歩絵に近づく。
中心で大きく羽を広げているのは、黒色をベースに、見る角度によって青白く光るような色をした蝶。周囲には鱗粉を思わせる細かい点描が施されていて、妖精のような幻想的な雰囲気が漂っている。
背景はくすんだ灰色で、どこか東京に似たビル街の無機質な景色を描いたもののようだった。
草花や空といった自然は一切なく、蝶には似つかわしくない景色だが、不思議とマッチしていて引き込まれる。
詩織はいったいどんな思いでこの絵を……。
彼女の思いを想像しながらしばらく絵を見つめた後、額の下に掲げてあるタイトルに視線を移す。そのシンプルなタイトルに俺の胸はドクンと音を立て、思わず声に出して読み上げた。