熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
俺は一歩ずつゆっくり彼女に近づき、手を伸ばして抱き寄せようとしたのだが。その寸前で小さな不安に駆られ、詩織の顔を覗き込んで確かめた。
「……あまり強い力で抱きしめたら、赤ちゃんが苦しがってしまう?」
詩織はくすっと笑って首を横に振った。そして。
「大丈夫よ。それより、この子に父親の温もりを教えてあげて?」
以前よりも頼もしく、そして愛情にあふれた〝母親〟の顔をして、詩織が優しく言ってくれた。
父親――。そうだ。俺はこの子の父親。俺にはその自覚が今まで足りなかった。
いくら事情があったって、詩織とわが子のためを思うなら、離れて暮らすべきじゃなかった。どんなに深く愛していたって……そばにいなければ、いざという時に守れないのだから。
今さらそんなことに気づいた未熟な俺を……詩織は夫として、お腹の子の父親として、認めてくれたんだ。
「ありがとう、詩織。それに今まで、本当にごめん。不安にさせて、寂しがらせて……」