熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
第七章
・忘れ去られたスケッチブック
初めて訪れる梗一のマンションは四十五階という信じられないほど高い建物で、彼が住むのはその四十階。
ラグジュアリーな内装や行き届いたサービスは高級ホテル並みで、窓からは東京を独り占めできたと錯覚してしまうような、美しい夜景が広がっていた。
梗一が以前私のアトリエを〝掘っ立て小屋〟と表現したことがあったけれど、こんな場所に住んでいるのならそれも仕方がない気がした。
「最初はね、沖縄にでも行ってのんびり子育てしようと思っていたの」
案内されたリビングダイニングで、ソファに落ち着いた私は、ゆっくりと今までのことを語り始めた。
梗一は私のいる場所からも見えるアイランドキッチンに立ち、飲み物を用意してくれている。
「暖かい気候は私の愛したあの島に似ているし、蝶たちもたくさんいる。だから、絵を描きながら子育てするのにちょうどいいかなって、荷造りまで済ませて空港へ行ったのよ」
そこまで話したところで、梗一がマグカップを二つ手にしてやってきた。
「詩織はホットミルクな。ほんの少しだけ甘くしてある」
「ありがとう」
ガラスのローテーブルにコトリと置かれたカップからは、ミルクの優しい香りが湯気とともに立ち昇る。手に取ってふうふうと冷まし、ひとくち飲んでみると。