熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「……美味しい。気持ちがまあるくなる味ね」
そう言って微笑んだ私に、梗一も穏やかな笑顔を向けながらソファに腰を下ろす。
「よかった。俺が子どもの頃好きだった味なんだ。……それで、話は空港へ行ったところまでだったな」
「そうそう。そこでね、私、すごく意外な人と会ったのよ。誰かわかる?」
たぶん、わかるはずはないだろう。私だって、二度と会うことはないと思っていた。というか、彼のことなんてそれまで思い出すこともなかった。
「……いや」
梗一から予想通りの返事が返ってきたので、私は思わずしたり顔になって答えを告げた。
「島で私を梗一のホテルまで無理やり連れて行った、あの若い男の子よ」
田んぼのあぜ道で私を呼び止めて、つたない英語で一生懸命に私を梗一のもとへ連れて行こうとしていた、浅黒い肌の若者。その彼がどうしてか、空港にいたのだ。
「若い男……ああ、サムットのことか。でもなぜだ? 彼はあの島に兄弟がたくさんいて、老いて稼ぎの減った両親の代わりに掛け持ちで仕事をしたりして、忙しい生活を送っていたはずだが……」