熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「ない。……少し変わりものなんだ。会社を継ぐのは俺に譲って、自分の好きな職について気ままにやってるよ」
「そうなの。じゃ、お兄さんの職業はなんなの?」
巨大な広告代理店の後継者という道を捨てて選んだ職業って、どんなものなんだろう。
私はささいな好奇心から尋ねただけなのに、南雲は少し不機嫌な表情になる。
「家族の話とはいえ、ほかの男のことばかり聞かれるのはあまり気分がよくない。兄のことはどうでもいいだろ? 次は、きみの家族のことを教えてくれ」
「……いいけど」
今のは、嫉妬? お兄さんのことを聞いただけで?
驚きと、戸惑いと、それからほんの少しの優越感に、心がくすぐられる。
嫉妬されて優越感を覚えるなんて……どうかしてる。きっと、アルコールのせいだわ。
私は強引にそう決めつけて、自分の家族の話をした。
「両親はね、もういないの。でも、その代わり自慢の姉がいるわ。優しくてしっかり者で、私はいつも助けられてきた。今は結婚して、旦那様と一人娘と幸せに暮らしてる」
「きみも、たまにはそういう一般的な家庭を築くことに憧れたりしないのか?」
南雲の質問に、私は〝まさか〟という風に首を振った。