熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「考えたこともなかったわ。でも、私に家庭を運営する能力はないわよ。神様ってば、私に絵の才能を与える代わりに、それ以外の能力は全部奪っていったのかもね」
「恋愛する能力も?」
南雲がテーブルに肘をつき、こちらを真剣に見つめる。
「それは……わからないけど」
私はぎこちなく視線をさまよわせ、言葉を濁した。
本当は、わかっている。私にだって恋愛する能力がちゃんと備わっているって。
そうでなければ、こんな場所で、嫌いなはずの男と同じテーブルについているわけがない。
……私の胸は確実に予感している。
目の前にいる男――南雲梗一と、恋に落ちてしまうことを。
「わからないのなら、確かめればいい。俺の部屋に来て、きみの心がどんなふうに動き出すのか」
レストランで食事をしている最中だというのに、南雲は獰猛な獣のように、鋭い瞳で私を射抜いた。
「あなたの部屋に……?」
彼の部屋に行く。その意味はひとつしかない。
飲みすぎたワインのせいでもともと上気していた頬が、また一段と熱を持った。