熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「私、やっぱり帰らせてもらおうかしら」
身の危険を感じた私は、引きつった笑みを浮かべ、素早く席を立つ。
そしてテーブルに背中を向けた瞬間、がたっと椅子が動く音がして、逞しい腕が私を後ろから抱きしめた。
「……冗談だよ、詩織。俺は、きみとまだ一緒にいたい。帰らないでくれ」
愁いを帯びた切ない声が、耳元で震える。
「ちょ、ちょっと、放して……」
南雲の言葉や行動にもドキドキしたけれど、それ以上に私をどぎまぎさせるのは、テラス席にいるほかの客たちの視線だ。
彼らは公衆の面前で抱き合う私たちを好奇の目を向けていて、私は両手で顔を覆いたい衝動に駆られる。
「お願い放して、見られてるから……っ」
「詩織が逃げないというなら」
「わかった、逃げない! 逃げないから……!」
やけくそになって私が叫ぶと、背中からゆっくりと大きなぬくもりが離れていった。
それから南雲は私の手を取ると、先ほどの切なげな雰囲気とは真逆の、明るい笑みを浮かべた。