熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
「ああ。忘れていたな。それなら、寝室にあるよ。どうしても詩織に見せたくて、わざわざ自宅から運ばせたんだ」
そんな言葉とともに、スッと彼の手が肩から離れホッとした。ソファから腰を上げた彼に続いて、私も寝室の方へと向かう。
そこで目にしたのは、ベッドと向かい合うようにして壁に立てかけてある、一枚の絵画だった。私は目を丸くし、ぽつりと呟く。
「これ、私の……」
それは、数年前に完成させた私自身の作品だった。モチーフはこの島に生息する蝶で、日本では観察できない、美しく巨大な黄金の羽をもつアゲハを描いたものだ。
今まで書いたものの中で最もサイズが大きく、完成までに要した月日も最長の、思い入れのある作品でもある。
そして確か、飛び切り高値で売れた記憶が……。
「まさか、俺がこの絵を持っているとは思わなかっただろう」
「ええ。いったいどうやって手に入れたの?」
「どうやってって、ごく普通にきみの個展に足を運んで買ったんだ。でも、ほかにもこの絵を欲しがっている奴らがいて、そいつらを諦めさせるためにだいぶ金を積んだよ。ま、きみに還元されるとわかっていたから、いくらでも出すつもりだったけど」
南雲はそう言って、わが子を愛でるような瞳で絵を見つめた。