熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
出会いは、日本でいえば真夏に当たる雨期の季節。
一日に何度も訪れるスコールのうちのひとつが過ぎ去り、からりと晴れた午後のことだった。
玄関のチャイムが鳴ったのを無視して絵を描くのに没頭していたら、ひとりの人物が勝手に室内に上がり込んできた。
普段アトリエに人が来ることはなく、玄関に鍵をかける習慣がなかったのをその日ばかりは後悔した。
集中力をそがれた私は若干の苛立ちを感じつつ、近づいてくる足音の方を振り向く。
そこにいたのは、一年中暑いこの島に全く似つかわしくない、上質なスーツに身を包んでいる日本人男性だった。
彼は私の訝し気な視線に気づいているはずなのに、全く意に介した様子はない。
それどころか私の聖域と言ってもいいアトリエの散らかりぶりに「汚い仕事場だな」と文句を言う始末だった。
いったい誰なのよ、この男は……。
私は〝迷惑だ〟と貼り付けたようなしかめ面で彼を睨んだけれど、目が合うと男はなぜか含み笑いを浮かべた。