熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~

『待ってくれ。……俺が先に会いに行く』

そう宣言すると、兄は驚いた様子もなくニッと口角を上げた。おそらく、俺の詩織への気持ちは以前から気づいていたのだろう。

『ああ、行ってこい。お前は俺のせいでいつも自由を奪われていたからな。これくらいでその借りが返せるとも思わないが、先に詩織に会いに行く権利くらい、譲ってやるさ』

……何を今さら、恩着せがましく。

さも弟思いのようにふるまう兄に逆に苛立って、俺は挑戦的な眼差しを向けながら言った。

『……ずいぶん余裕だな。俺には落とせないと思っているんだろう』

『まさか。俺だって追い返されるだけかもしれない。女心は難しいからな』

『難しくても、俺は必ず彼女を落とす。そして日本に連れ帰って……結婚する』

堂々と宣言すると兄は茶化すような口笛を吹いたが、俺は真剣だった。

彼女のアトリエの場所を調べると、秘書に仕事を調整させてすぐさま十日間の休暇を取り、飛行機のチケットを手配した。

詩織は誰にも渡さない。その一心だった。



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