熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~
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「ん……」
詩織が何度目かの寝返りを打ち、ようやく目を覚ます。
俺はすでに詩織の寝姿を描くのを終えていて、スケッチブックを彼女の目に触れない場所に隠していた。
いくら俺が自他ともに認める自信家でも、素人の趣味程度の絵を、プロの絵描きである詩織に見せる自信は到底ない。
それからは、椅子に座ったまま飽きずに彼女を観察していた。
まだ眠たそうに目を擦る彼女の、無防備な雰囲気にときめきを覚えつつ、優しく声をかけた。
「おはよう、詩織」
「うん。おはよ……。って」
挨拶を交わしてから、彼女は自分の置かれた状況に気づいたらしい。
がばっと上半身を起こし、大きな目を瞬かせてキョロキョロ辺りを見回したかと思うと、頭に手を添えて記憶をたどり始める。
「私、ソファで寝てたような気がするんだけど……」
「ああ。あんな場所で寝ていたら風邪を引くから俺がベッドに運んだんだ。詩織、ちゃんと食べているのか? 抱き抱えたらあまりに軽くて心配になった」
「よ、余計なお世話! ……っていうか確認なんだけど、あなたまさか変なことしていないわよね?」
恐る恐ると言った感じで上目遣いを向けてくる彼女。身に覚えがないのならそれが真実なのに、よほど俺が信用できないらしい。
そんなことを言われると、こちらも意地悪心が湧いて仕返しをしたくなってしまう。