熱情バカンス~御曹司の赤ちゃんを身ごもりました~




「ん……」

詩織が何度目かの寝返りを打ち、ようやく目を覚ます。

俺はすでに詩織の寝姿を描くのを終えていて、スケッチブックを彼女の目に触れない場所に隠していた。

いくら俺が自他ともに認める自信家でも、素人の趣味程度の絵を、プロの絵描きである詩織に見せる自信は到底ない。

それからは、椅子に座ったまま飽きずに彼女を観察していた。

まだ眠たそうに目を擦る彼女の、無防備な雰囲気にときめきを覚えつつ、優しく声をかけた。

「おはよう、詩織」

「うん。おはよ……。って」

挨拶を交わしてから、彼女は自分の置かれた状況に気づいたらしい。

がばっと上半身を起こし、大きな目を瞬かせてキョロキョロ辺りを見回したかと思うと、頭に手を添えて記憶をたどり始める。

「私、ソファで寝てたような気がするんだけど……」

「ああ。あんな場所で寝ていたら風邪を引くから俺がベッドに運んだんだ。詩織、ちゃんと食べているのか? 抱き抱えたらあまりに軽くて心配になった」

「よ、余計なお世話! ……っていうか確認なんだけど、あなたまさか変なことしていないわよね?」

恐る恐ると言った感じで上目遣いを向けてくる彼女。身に覚えがないのならそれが真実なのに、よほど俺が信用できないらしい。

そんなことを言われると、こちらも意地悪心が湧いて仕返しをしたくなってしまう。


< 42 / 181 >

この作品をシェア

pagetop